長い午後
知り合って間もない友人に大切な友人を紹介してもらう
まさかこんな展開になるなんて予想もしていなかった
その友人の友人は今まで出会った中で稀に見る巨体で驚くほど顔が長かった
そして深淵でやさしい目をしていた
おそるおそる鼻づらをなでてみるとほっこり温かく
和菓子の求肥の感触に似ていた
構えていたカメラにフゥッフゥッとかかる生温かい鼻息は
真冬だったらきっと白い湯気のように見えたに違いない
北海道のばんえい競馬出身だという茶丸(愛称)
馬喰さんの仲介で数年前この農家に連れてこられたそうだ
年齢は10才 人間で言えば50歳くらいか
仲間から引き離された当初は寂しさと心細さが顔中に漂っていたという
今は盛岡の伝統行事チャグチャグ馬っこのお祭りの日に
装束を身にまとい晴れの舞台に立つ大切な任務を果たしている
馬を飼う農家が年々減っていく中で一頭を養っていくことは
想像以上に手間と資金がかかるのだろうそしてもちろん愛情も
友人が用意してきた人参をうれしそうにほおばる茶丸
コリシャリと噛む音は人間のそれとは迫力がまったく違うのだ
私も差し出してみると柔らかい唇が手のひらに円を描いた
一トンもの体重を支える頑丈な四肢
日頃の癖で「お手」と口にしてしまった自分がおかしかった
波打つような背中の曲線
これが馬なんだ・・・
その光景の切り取りは今と昔の境目を消してしまうかのようだ
馬主さんから聞かれた
「あなたと馬の関係は・・・?」
友人がすかさず言う「午年なんだって」
ちょっと待って!それだけじゃないんだよ 射手座だし・・・さ
子供の頃私が育った家の住所は盛岡市新馬町(しんままち)といってね
え?ご存知なのですね!そうそうそうです
近くには馬検場があって馬の競り市をしていました
幼い姉を抱っこして見物に来ていた母の写真が小学校の教科書に載ったのです
私は誰もいない時あの場所にあった太い鉄の鎖を
鉄棒代わりしたり時には綱渡りに挑戦して遊んだのです
バランスを崩して頭を打ったことも度々あります
いかつい革靴にゲートルを巻いた目の鋭い馬喰さんも記憶しています
だからこの出会いは決して偶然ではないと思うからとてもうれしいのです
馬は遠いようでどこか近かったのです
茶丸にとって私はただの野次馬に過ぎないのだろうけれど
それでもありがとう やさしく迎えてくれて
できたらまた会いたいです 元気でいてね
友人が描いた茶丸 すごい!金剛石級の絵馬だ
もう何十年と私から遠ざかっていたチャグチャグ馬っこ
来年は見てみたいと思った
友人になったばかりの友人の
そのまた遠い友人に一時なれたような気がした