きしうすたしいあのせかは
今まで読んだ中で一番好きな小説は何かと考えてみる
本棚の大部分を占めているのは小川洋子の作品
主治医のK先生に勧められものの見事にはまった
たぶん彼女の作品はほとんど読んでいるはず
どれもこれも順番をつけ難いけれどあえて言うなら
「博士の愛した数式」
一度ページをめくると最後まで止められない
言葉の持つ美しさやさしさそして儚さにその都度魅了される そして
素数友愛数階乗虚数約数完全数過剰数不足数その他多くの記号たち
数学が大の苦手な私でも読み進むほどにそれが計算式から遊離し
何か特別な意味を持つ魅力的な存在に思えてくる
そして本の主人公の女性のように目にする数字が近づいてくる
自分の生年月日に秘められているかもしれない謎を博士に質問してみたくもなる
久々に映画版を観た
原作を崩すことのない良い加減の醍醐味がそこにある
数日前の夕食後また原作を一気に読んだ
読書の後の涙はいい
映画館で泣いた後のように慌てる必要がない
浸っていた世界を好きなだけ引きずっていられる
気分が落ち着いた頃に台所でレモンを切った
手元が狂って指先から血が溢れた
さほどの同様もなく傷口をギュッと握って血を止めた
ストーリーに出てくるルートと呼ばれる少年が指を切り
博士に背負われて病院に走る場面を思い起こしながら絆創膏を巻いた
「これぞ完璧な成り行きじゃない!」そうつぶやき笑みまで浮かべた
あの夜の私はまだ半分以上本の世界に浸っていたに違いない
㊟見出しは博士の得意とした逆さ言葉です