壇上の薔薇
その人のバイオリンの音色を始めて聴いたのは
音楽大学を卒業後アメリカに留学する前に地元盛岡で開かれた
コンサート会場でのことだった
隣の席にはまだ元気だった母が座っていた
淡い花模様のドレスを着たその人はとても初々しく
曲と曲の合間のはにかむようなしぐさは
弦の振動と相まって高揚する鼓動も伝わってくるような気がした
あれから10年以上の時が流れ海外各地で研鑽を重ねてきたその人の
演奏会がふたたび盛岡で開かれた
薔薇色のドレスを身に纏い一層魅力を増したその姿に見とれた
初々しさはそのままに その一方で音色と表情は
計り知れない努力と情熱そして経験を重ねたこその自信に満ちていた
時折ピチカートの弾ける音が心地良かった
その人の白く細い指が小さな弧を描く時
一瞬だけ弓が弦から離れ宙を彷徨うような動きに魅了された
プログラムの絶妙な構成が見事だった
いつかまたその人の音色を聴く機会を
そしてその機会に遭遇した時の自身の反応に
期待を抱かずにはいられない