福志
大学病院に長期間入院しておられたあるご老人が転院することになりました。
歳を取ってからの環境の変化は精神的にも身体的にも過酷なことだと言われています。
まさにそのご老人にとっても大きな試練だったに違いありません。
転院の当日促す家族をよそになかなかベッドから動こうしませんでした。
その時、たまたま車椅子の送迎で病室に居合わせいた福祉タクシーの運転手が
声を掛けました。「今度移る病院は景色がとても良くて晴れた日には岩手山も
眺めることができるようですよ。きっといいこともあるはずです」
その一言に「そうか?」とつぶやいた老人の心はやっと前に進み出しました。
最近実際にあった話です。
私の母も晩年病院と施設を何度も往復したのですが、その時の戸惑いの表情と混乱に
切なさを感じたものでした。弱者にとって家族はかけがえのない存在であることは
確かですが、他者だからこそできることもあるのだと改めて認識させられました。
また福祉に携わる側が、力を貸したり手助けをしたりするだけではなく
心を開いて取り組むことこそ重要なことであることにも気付かされました。
表向きだけの福祉の現状が露呈される中、心温まるエピソードに胸が熱くなりました。
そしてそのご老人が新しい環境にとけ込んでいくことを心から願うのです。
2015.1.撮影