一の涙 と 二の涙
かかりつけ医院で点滴を終え家に辿り着いた途端、睡魔に襲われソファでそのまま二時
間眠ってしまった。週末は次男の舞台を観に東京に行くはずだったのだが、諦めるしか
なかった。チケットの払い戻しの手続きを友に頼み、ホテルの予約もキャンセ
ル。こんな番狂わせは始めての経験だった。
だるい我が身と悔しい心をもてあましただただ寝ていることの苦痛といったら。
平凡な毎日こそが幸せなのだ。
ただ読みかけの本を完読できたこと、そして宮沢賢治の詩二編と出会えたことは大きな
喜びだった。そして生の人物像に迫ろうとする著者の視点にも心打たれた。
『見よ桜には おのおのの千の 位置ありて 青々と 日にかがやける あり』
『よく描き よくうたふもの なにとて かくは 身よわきぞ と』
友人に借りたその本には著者のサインと和紙に包まれた桜の押し花が挟んであった。
右に左にこぼれ落ちる涙は無念と感動の混ざり合った心を鎮めてくれたのだった。