Place
帰省した息子が車に同乗していた時、車窓から見える岩手山を見て感動の声を上げた。
写真に撮ろうとしていたようだったが、不自然な場所からしかもそこは国道で、行き交
う車や電線が視界を防ぎ格好の場所とは到底言えなかった。しばらく車を走らせ郊外の
デパートの駐車場から見える岩手山を狙うことにした。
「写真を撮るの?」車の誘導員の男性に声をかけられた。最上階から撮れば間違いない
という親切なアドバイスを受け、さっそく向った屋上駐車場に冬場は立ち入る人はだれ
もいない。半分解けかけた雪をざくざく踏んで進んでいった先に岩手山がくっきり見え
た。遮るものがほとんどなく、町の中心部から少し離れただけの場所にしては格別の眺
めだった。
息子も私も持ち合わせの機器の小さな画面を除くのだが、逆光に近いため画像確認が難
しく、勘を頼りにシャッターを切った。寒風が体に突き刺さるように冷たく、早々に引
き揚げ、家に戻ってからお互いの出来栄えを確認しあった。結果はダントツで息子の勝
利。私の撮った岩手山は斜めに偏っていた。
富士山を見ると思い出すのは岩手山・・・後日読んだ息子の文面から「ふるさと
はとおきにありておもうもの」という詩の一節が浮かんできた。
日常から一時遠ざかった時間を振り返ってみる。久しぶりのライブをありのままの私で
表現できたのは、母である自分を無意識に自覚しながら臨んだことも要因のひとつでは
ないかと感じる。そして、暮らす場所は違っていても家族は私のそばに在るのだという
こともまた。