Rさんと月
午後病床に伏せる叔母のRさんを見舞った
レース越しの光が部屋いっぱいに射しこんでいた
「春が来るよ」ほとんど目を開けることのないRさんの耳元でささやいた
むくんだ手をそっと握ると思いの外ギュッギュッと握り返してきた
「ありがたい」やっと聞きとれた言葉に胸が詰まった
マスクの中で涙と鼻水が混ざり合った
その夜月を探して外に出た
凍った道路の雪がザクザクと音を立てた
近くの公園の入り口から山側をみると
雲間にぼんやり月明りが滲んでいた
青白い光の下の外気は澄んでいて寒さが心地良かった
就寝前にもう一度見た月は輝きを増していた
「ありがたい」Rさんと私の声が重なった